2021/02/13更新しました。
私の近所に暮らしていた70代女性が3年ほど前に、家じまいをしました。
息子さんが東京のマンション住まいのため、故郷の家を処分して、病弱な母親を引き取ったのです。
先日、久しぶりにその70代女性が私の町に戻り、お目にかかりました。
「タワーマンションはセキュリティが厳しいから、玄関ドアの開け閉めがひとりでできないし、システムキッチンはIHなので、使い方がわからない。
いまでも眠りに落ちると、この町にかつてあった家や処分したタンスが夢にでてくるのよ」と、悲嘆に暮れます。
家じまいについて、知人のケースをお伝えします。
スポンサーリンク
家じまいとは?
40代や50代の方は、実家の片付けが問題になっていることが多い。
家じまいとは、不動産である家屋そのものを処分すること。
うまくいくと、売ったお金を老後資金にすることが可能。
似た言葉として「墓じまい」があげられるでしょうか。
家もお墓も「おしまい」にすることは簡単ではありません。
さて、近所に住んでいた70代女性は、昭和20年の生まれですから、それほど高齢ではないのですが、乳ガンと糖尿病を60代で患ってから、めっきり老け込みました。
ご主人は定年退職すると肺ガンで闘病3カ月でこの世を去り、彼女は10年ほど独り暮らしをするうちに、体調がわるくなってしまったのです。
疲れやすく、横になっていることが多いため、家の片付けはできなかったとか。
その戸建ての家は築30年ほどで、よく手入れされていたので、住むことは可能でした。
60歳からうつ病や糖尿病に
70代女性は元気だったころ、料理好きでご主人の同僚や息子さんの友人に、よく手料理をふるまいました。
食べるのが好きな方ですから、ぽっちゃりした体型で、おしゃべり好き。
また、服やバッグにこだわりがあって、「コートやセーターはカシミアが軽くて品が良いわねえ。
バッグはイビザの皮が柔らかくで気に入っているから、5個も6個も持っているの」と、以前は話したものです。
ところが病気が続いて、うつ病にもなり、介護ヘルパーの手を借りながら、日常をやっと送るようになってしまいました。
体重は20キロ近くも落ちて、まるで別人。
歩く後ろ姿も力ない感じで、性格も暗くなります。
食べることが趣味だった彼女は、知らない間に糖尿病にもなっていたのです。
それでとうとう40代の息子さんが東京に引き取ることになったのですが、引っ越しはとても急だった。
後から聞いたところによると、息子さんが出した案は2択だったそうです。
- 老人施設に入所するか
- 東京のマンションに行くか
モノを持ち込めない
70代女性は、息子さんが妻子とともに暮らすマンションに行くことを決断。
その際に、息子さんに釘を刺されます。
「母さんのために一部屋を空けたけれど、狭いから荷物を多くは持ち込めないよ」
- お気入りの食器はNG
- タンスや食器棚など家具もダメ
カシミアのコートを手に取り、畳もうとすると、息子さんが言いました。
「東京はめったに雪が降らないから、コートもいらない」
彼女は、ボストンバッグに詰めるくらいの手荷物だけで故郷を去ったのです。
ところで、私の実母がグループホームに入所するときも、大半のモノを処分しました。
業者に依頼して、トラックに運び出して、捨ててもらったです。
賃貸の部屋だったので、やはり急ぐ必要があり、叔父が手配してくれました。
実母は認知症のためか、施設に入ってからの方が穏やかな表情で過ごしています。
スポンサーリンク
家が売れる
70代女性の持ち家は幸いなことに、すぐ買い手がつきました。
ショベルカーで一気に取り壊す前に、家財を業者が運び出すところを、私は目撃。
2階の窓ガラスをはずして、ほとんど放り投げるようにタンスを中型トラックの荷台へ落としたので、地鳴りのような騒音でしたね。
はい、はっきり言えば、近所迷惑な騒音。
1階の台所からは漬物樽や、手作りの果実酒が手当たり次第に詰め込まれ、大枚をはたいて買った食器も、そのなかにあったに違いない。
骨董的な価値はないでしょうから、業者にしたらただのゴミの山になります。
生活の痕跡は2日間ですっかり撤去され、空き家で放置されるよりは良かったのですが、あっけないくらい。
もの悲しく感じられました。
タンスの中の服が夢に出てくる
東京に移り住んだ70代女性は、親戚のお付き合いでたまにもどると、ホテルに宿泊するそうです。
そんなときにお会いしました。
「今でもタンスにあったお気入りの服やコートの夢をみるのよ。
まさか、体がこんなに弱くなるとは思っていなかったから、買いたい物を買って、食べたいものを食べる暮らしが続くと思っていた。
突然だったの。
主人が亡くなったことも、自分の糖尿病がひどくなってインシュリンの注射を打たなければならなくなったことも、乳ガンも」
その方の場合は、自分で片づけをできなかったことで、モノへの執着があるのかもしれません。
「あなたの家財道具は2階 の窓からめちゃくちゃに投げ捨てられた」とは、とても話すことはできません。
彼女が知らなくても良いことです。
私がだまって話を聞くと、さらにこう語りました。
「東京では昼間、息子夫婦は勤めに、孫は学校へ出るため独りで過ごしている。
友人はいないし、迷子になるから外出はしない。
そもそも玄関ドアのセキュリティが複雑で、開け閉めできない。
いまもIHクッキングは使えないくて、昼はバナナと食パンで済ましているの。
毎日そうよ」
70代女性は、息子さんの家で安寧に暮らしているため、はた目には恵まれて映ります。
もっと悲惨な老後の方もたくさんいることでしょう。
そして、老いる前の年代も生活は大変です。
モノに執着することは悲しい
モノには付喪神(つくもがみ)が宿るという考え方が、日本に古くからあります。
古道具には精霊や霊魂がやどり、人をたぶらかすという説や、 モノを粗末にすると祟られるという話も。
それにしても知人女性の話に、私はモノに執着することは悲しいことだと感じました。
未練があると、捨てられたモノに持ち主の念が乗り移り、夜中にしくしくと泣く古道具が脳裏に浮かびます。
ええ、テレビやホラー小説の影響かもしれませんが。
しかし、辛く感じても捨てたほうが、よい結果につながってきました。
- 夫婦げんかが減った
- 人の気持ちが理解できるようになった
- 相手の立場がわかるようになった
これから残りの人生は今あるものを使い切って、上手に処分していきたいです。
まとめ
かつて近所に住んでいた70代女性は、ご主人を亡くした後で次々と病気になった、お気の毒な方です。
息子さんの家で扶養されて、経済的な不安はない方ですが、生前整理を自分で行えなかったことから、前に持っていた服やバッグ、靴等に未練があるようでした。
執着を断つ。
このことの大切さを感じた次第です。
関連記事をいかがですか
スポンサーリンク