はてなインターネット文学賞「記憶に残っている、あの日」
特別お題キャンペーンは、8月9日まで。
応募資格は、はてなブログを利用の方です。
応募キーワード「はてなインターネット文学賞」を明記。
せっかくの機会なので、お題 #「記憶に残っている、あの日」について、書こうと思います。
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君は、生まれてきてくれただけで花丸だよ
2018年春4月、君は産声をあげた。
逆子のため帝王切開で誕生し、生まれた瞬間には君のパパですら、立ち会えなかった。
私はこの日、ばあばとなるのだった。
君のママは、私の娘だから。
じいじとばあばと、君のパパとで待合室で待っていたら、夕方の7時過ぎにドクターが「3,155グラムで、ぶじに女のお子さんが生まれました。お母さんも赤ちゃんも元気ですよ」と、知らせてくれた。
まもなく看護師さんが新生児用ベッドに乗せて、君を連れてきた。
白いベビードレスを着た君は小さくて、目を閉じながらも、かすかに首を動かす。
君のママが移動式ベッドに乗せられて来て、そのときが初対面だったのだろう。
「ああ、かわいい!」
君の手に、自分の指先を重ねた。
私は、君の指先に桜貝のような爪がちゃんとあるのを見て、なんて精巧にできているのだろうと、感じ入った。
目も鼻も口も、整っている。
すでに、婆バカ全開。
それにしても命の誕生は、神秘的だ。
自分の出産体験は、痛みの記憶が強かったけれど、しみじみと嬉しさだけがこみあげる。
「良かった、良かった。ぶじに生まれてきてくれて、ありがとう」
なんども繰り返した。
君のママは帝王切開のため、傷の痛みがひどかったが、次の日にはベッドから降り、 君のパパと新生児室まで歩く。
その廊下が、果てしなく長く感じられたそうだ。
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新生児の体重
やがて、母子同室となると、君のママは思うように母乳を飲んでくれないと嘆いた。
「体重が増えないの。1日30グラムは増えていかないとダメなのに」
出産して1週間、必死だった。
精神的に不安定になるのは、産後にホルモンバランスが崩れるせいだから、私は「大丈夫よ、そのうち飲むから」と、慰める。
「大丈夫じゃないのよ!
1日30グラム増えないと、退院できないのッ」
苛立つママはベッドに泣き伏し、私は小さな君を抱きしめる。
つぶらな瞳で、私を見つめる君に
「ばあばがついているから、何も心配しないでね」
そう声を掛けると、君は瞬きをしてくれた。
里帰り出産
君のパパは東京で働くサラリーマンだから、誕生を見届けると新幹線で帰り、出生届は都内の区役所に出した。
君が生まれた北国では、桜が花吹雪となっていたから、「花菜(はな」と名づけられた。*仮名です。
実の娘とは言え、里帰り出産した君のママは、 取り扱い説明書がほしいくらい、態度がデカい。
感情の揺れがとても大きくて、困惑した。
おまけに授かり婚だったこともあり、私は君のパパとは数回しか会っていなかった。
どうおもてなしをすればいいのかと、戸惑った。
「母さんはお金の話をして 品がない」と叱られたのは、里帰りの終盤。
君のママは、実家をセレブに見せたかったのかもしれない。
超がつくほど庶民派の私たちは、セレブを真似たくても、すぐに地金がでて、むりだった。
そんなこんなで、一カ月検診が済んで、君は迎えにきたパパに抱かれて、ママと新幹線で東京へ行ってしまう。
「いつでも遊びに来てね、花菜ちゃん」
別れ際にそう呼びかけたが、君はすやすやとパパの腕のなかで眠ったままだ。
コロナ禍で会えない
あっという間に、君は3歳の誕生日を迎えたね。
コロナ禍のせいで、2年も会えていない。
この頃の君は、言葉を上手に話せてテレビ電話で見る度に、ばあばはビックリしている。
この前、電話したときスマホに映った君は、泣きべそ顔だった。
「花菜ちゃん、お利口さんねえ」
そう話しかけると、「花菜、お利口さんじゃないの」と、君は目に涙を浮かべる。
おしっこを漏らして、ママに叱られたのか。
それにしても、たった3歳にして、自己否定をするなんて……。
私は絶句し、全力で自己肯定感が上がるような言葉掛けをする。
「花菜ちゃんはね、お利口さんなの。
生まれてきてくれただけで、花丸の二重丸だよ」
大きな声でスマホに言うと、君はホッとしたように笑顔をみせた。
ばあばは、いつだって君の応援隊だよ。
君が生まれた春の夕べは、私の人生のベストワンなのだから。
まとめ
拙文をお読み下さり、ありがとうございます。
母と娘の関係は難しいものがあっても、孫はひたすら可愛い。
生まれてきてくれて、ありがとう。
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