『父の逸脱 ピアノレッスンという拷問』はフランス人の女性医師 セリーヌ・ラファエルが書いたベストセラー本です。
一流のピアニストにするという父親の期待のもと、4歳から毎日7時間のピアノレッスンというのですから、ただごとでありません。
それは高熱の日も指をケガした日も続き、父親は「ミスをした」と言いがかりを付けては彼女の尻を鞭打ち。
教育虐待の体験記、その感想をお伝えします。
スポンサーリンク
父はエリート
著者のセリーヌ・ラファエルは1984年、フランス中南部オーヴェルニュ地域圏の生まれ。
彼女の父親はエリートとして企業に勤務し、一家は裕福な階層の人間として暮らします。
家族は父母と妹の4人暮し。
- 外では温厚そうに振る舞い、家の中では専制君主のような父
- 父に逆らうことができない、おとなしい母親
- 生まれつき足に障がいがある2歳下の妹
長女であるセリーヌは、1歳前から言葉を話すなど乳幼児期から、際立った才能の持ち主。
妹が妊娠5カ月の早産で生まれて、障がいがあることから、セリーヌは母親の負担を減らすため、ピアノを習うことになります。
そのとき教えてもらったピアノ教師が「この子は才能がある」と、べた褒めしたことで過酷な日々が始まることになるとは……。
エスカレートする虐待
一家は、父親の転勤により、ドイツに移り住みます。
セリーヌは4歳半。
「いいか、これからノートに記録につける。
自分の間違いに気づかないまま3回以上弾いたら、革のベルトで3回、お前の尻をひっぱたく。
わかったな」
『父の逸脱』22ページ
緊張と恐怖で、指が動かなくなるセリーヌ。
ヨーロッパの伝統的な体罰は、こどものズボンを下げて前屈みにさせての鞭打ちです。
4歳から始まったこの体罰は、17歳まで続きました。
初潮を迎えて毎月の生理のときも、下着を下げないといけません。
屈辱感と痛みに、精神が破壊されてもおかしくない状況。
また、食事を食べさせてくれないことも、ひんぱんになっていきます。
彼女は幼いときから、壁の向こうで家族が食事をするナイフやフォークの音を耳にしながら、空腹に堪えなければなりません。
それでいて、父親は象牙の鍵盤つきグランドピアノを彼女に与えていました。
虐待は、外に漏れることなくエスカレートしたのです。
父親の生い立ち
イタリアから移民した家族の長男だった父親は子ども頃、貧困を味わいます。
フランス語がしゃべれなかった祖父は、子どもには立身出世を望み、学校の成績にうるさく、激しい体罰を加えました。
父親はおびえ、自殺未遂も。
この祖父は老いても、成人した子どもたちに口答えを許さず、執拗に殴るような意地の悪い、粘着質の性格だったとか。
そして、父親は極めて優秀な学生として母親と知り合い、ふたりは結婚し、セリーヌが誕生。
しかし、父親の精神はすでに、引き裂かれていたのでしょう。
幼いときに自分が受けた傷を投影して、復讐でもするようにセリーヌを苛(さいな)むのです。
学校も気づかない
セリーヌの体が青あざだらけでも、小学校の教師は気づきませんでした。
なぜなら水泳の授業はかならず休ませられ、肌を見せることはなかったからです。
また、父親は外ではにこやかに愛想良くふるまうため、誰も家庭内の秘密をうかがい知ることがなかったのでしょう。
母はセリーヌの味方でしたが、父親に逆らってまでは庇うことがありません。
そしてピアノを置いた部屋には、母親と妹を立ち入らせなかったのです。
フランスでは今も2日に1人、子どもが虐待死していますが、 家庭内のことして関知されないケースが多いそうです。
セリーヌは学校が終わると毎日7時間、深夜まで父親がつきっきりでピアノレッスン。
父親は音感が良いので、ミスを許しません。
彼女は次第に、生き延びることだけを考えます。
それは上手に弾くこと。
コンクールで上位優勝しますが、父親は満足しません。
セリーヌは拒食症となり、高校2年生になりました。
スポンサーリンク
ようやくの保護
高校の保健室の先生が、セリーヌの拒食症に気づいて初めて家の事情を聞かれます。
ようやく父親から殴られ、鞭打たれてピアノレッスンをしていたことを打ち明けることができました。
父親の暴力はますますひどくなり、セリーヌの髪をわしづかみにして、階段をひきずり下ろすなど歯止めがかからない状況なので、まさに危機一髪。
父親と母親の家を出て、セリーヌは当局に保護されます。
しかし、フランスでは当時、さほど児童虐待に社会が関心を寄せなくて、セリーヌは虚言癖のある女の子として扱われることに。
セリーヌさんが顔出しでインタビューに応じています。
小柄そうな方で、今もたくさん食べることができないのかもしれません。
パートーナーを得て、幸せに暮らしているそうです。
父親はピアニストにしたかったけれど、彼女の夢は医者。
保護されて紆余曲折がありましたが、奨学金を受けて進学できました。
父親とは別に暮らして、連絡は取っているとのこと。
裁判となり父親は、日本でいうところの執行猶予つきの有罪に。
しかし、自分の正当性を主張して、罪を認めることはなかった。
娘は自分の分身だという思いが強すぎたのかもしれません。
子どもは、親から生まれても別人格です。
虐待の連鎖についても、考えさせられる1冊。
映画化が決定したベストセラー。
日本では連日のように、虐待に関する報道がなされて、もはや珍しくありません。
これは世界中で起きていることだと、改めて感じました。
まとめ
『父の逸脱 ピアノレッスンという拷問』は、教育虐待もここまでくると殺人行為だと思わざるえません。
家庭内では歯止めがきかなくなることが、よく理解できる体験記です。
すさまじい虐待に、一気読みして震えました。
世界から児童虐待がなくなりますように。
本の感想をお伝えしました。
関連記事をいかがですか
スポンサーリンク